千葉地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決 1991年1月28日
千葉県鎌ヶ谷市南初富4丁目18番60号
原告
中岬裕考
千葉県松戸市大字小根本字久保53番地3
被告
松戸税務署長 速水陽一
右指定代理人
沼田寛
外5名
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成元年2月22日付けで原告に対して行った昭和60年分の所得税の更正処分,同61,62年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告の答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は,平成元年2月22日付けで原告に対し,昭和60年分の所得税の更正処分,同61,62年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下,右各処分をあわせて「本件処分」という。)を行った。
2 昭和60年から同62年分までの原告の所得金額は原告が申告したとおりであり,被告の本件処分はいずれも過大であって違法である。
3 原告は,平成元年5月12日に被告から督促状が送達されて初めて本件処分がなされたことを知り,同年6月12日に被告に対して本件処分について異議申立てをしたが,被告は,同月28日,右異議申立てを却下した。さらに,原告は,同年7月26日に国税不服審判所長に対して審査請求したが,同所長は,同年11月26日,右審査請求を却下した。
よって,原告は,被告に対し,本件処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 被告は,本件処分に先立ち,平成元年2月17日,原告の妻中岫トミエ(以下「トミエ」という。)に架電して,近日中に更正処分等を行う旨及び右更正処分にかかる所得金額等を伝えるととも,右内容を原告に伝言するよう依頼したところ,トミエはこれを了承した。
2 被告は,原告に対し,本件処分を同年2月22日付けで行い,本件処分にかかる通知書(以下「本件通知書」という。)を書留郵便に付して発送した。郵便局員は,同月23日,原告宅に右通知書を持参したがトミエはその受領を拒絶した。
3 原告は,平成元年6月12日に被告に対して異議申立てを行ったが,被告は,法定の異議申立期間を徒過した不適法なものであるとして,同月28日付けでこれを却下した。
4 原告及びトミエは,平成元年2月23日,それが本件通知書であることを知りながらその受領を拒絶したものであるから,右受領拒絶により本件通知書が原告の手に渡らなかったとしても,その内容は原告の了知しうる状態におかれたというべきであって,同日,原告に対する本件処分の告知の効力が発生したものと解すべきであり,本件処分にかかる申立期間は右告知の日の翌日である平成元年2月24日から起算されるべきである。
5 以上により明らかなとおり,本件処分の各取消しを求める原告の訴えは,いずれも適法な不服申立てを経由していないものであるから,行政事件訴訟法8条,国税通則法115条に反する不適法な訴えであり,却下されるべきである。
三 被告の本案前の主張に対する原告の認否及び反論
1 本案前の主張1は否認する。
2 同2のうち,当日,原告宅に郵便局員が来たことは認める。郵便物は,原告が不在だったので,トミエが郵便局員に持ち帰ってもらったのである。トミエは,郵便物に触っておらず,その内容もわからなかった。
3 同3は認める。
4 同4のうち,原告及び妻が本件通知書であることを知りながら受領を拒絶したものであること,本件通知書の内容が原告の了知しうる状態に置かれたことは否認する。原告が本件処分を知ったのは督促状が送達された平成元年5月12日であり,不服申立期間はその時点から起算されるべきである。
5 同5は争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の証書目録及び証人等目録の各記載を引用する。
理由
一 本件処分に対する異議申立てが法定の不服申立期間内のなされたかにつき判断する。
1 国税通則法77条第1項は,不服申立ては,処分があったことを知った日(処分にかかる通知を受けた場合には,その受けた日)の翌日から起算して二月以内にしなければならないと規定するが,「処分にかかる通知を受けた日」というには,処分の相手方が右通知を直接受領したり,現実に知ったりすることまで要するものではなく,社会通念上,右通知の内容を了知しうる客観的状態に置かれれば足りるものと解すべきである。
2 そこで本件事案においてこの点を検討する。
被告が平成2年2月22日に本件処分を行ったこと,同月23日に原告宅に本件通知書が配達されたことは当事者間に争いがなく,成立の争いのない乙第1号証の1,2,証人神谷信茂(以下「神谷」という。)の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第2号証,証人トミエの証言(一部),原告本人尋問の結果によれば,次の各事実を認めることができ,証人トミエの供述中に,この認定に反する部分は後記のとおり採用することができず,他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 原告は建設業を営んでいる。トミエは,その妻であって,原告が不在の際に受けた電話の取次ぎや帳簿の整理等をして原告の事務を手伝っていた。
(二) 当時松戸税務署上席国税調査官であった神谷は,昭和63年9月ごろから数回,原告方において所得税調査を行っているが,右調査には毎回トミエが立ち会っていた。
(三) 神谷は平成2年2月17日,原告方に電話し,電話口に出たトミエに対し,原告の昭和60年分から同62年までの更正処分にかかる所得金額と新たに納める所得税額を伝え,さらに,同月21日までに原告から連絡があれば調査金額の内容について説明すること,それまでに連絡がなければ,更正処分を行うことなどを話し,その旨原告に伝えるように依頼した(証人トミエは,右当日,神谷からの電話を受けていないと供述するが,この点に関する証人神谷の証言は,詳細かつ具体的で,証人トミエの証言により認められる同人の当日の行動等とも符合しうるものであって,右神谷の証言に照らすと証人トミエの右供述部分は採用することができない。)。
(四) 被告は,その後,平成元年2月22日付けで本件処分を行い,本件通知書を書留郵便に付して発送したところ,右通知書は同月23日に原告宅に配達された。
(五) 本件通知書の配達時に原告は不在であり,在宅していたトミエは,以前に書留郵便を受領して原告に叱られたことがあり,原告から書留や内容証明郵便は一切受け取らないように指示されていたことから,郵便局員に本件通知書を必ず受け取らなければならないのかを尋ねてその受領を拒絶した。なお,トミエは,帰宅した原告に税務署から内容証明郵便が来たと告げているのであって,本件通知書が税務署からのものであることは認識していたものである。
3 以上のとおりトミエは,事前に本件処分のあることを知らされていたにもかかわらず,原告の指示に従ったという正当な理由となり得ない理由により本件通知書を受領しなかったのであるから,その時点において,社会通念上,原告が右通知の内容を了知することが可能な客観的状態に置かれたものということができる。
よって,原告が本件処分の通知を受けた日は,平成元年2月23日をいうべきである。
(裁判官 春日道良 裁判官 内山梨枝子)